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未完のユリシーズ

翻訳家の柳瀬尚紀氏が昨年(2016年)亡くなっていたことのショックがまだじんわりと残っている。

 

そもそも今年の正月に親戚の家へ行く途中のバスを待つ間にふらりと立ち寄った本屋で河出書房の分厚い『ユリシーズ』が平積みされていたからとうとう出たのかと即座に購入したのだが、それを読んで、遅まきながら柳瀬尚紀がすでに亡くなっていたことを知り、微かな虚無感に苛まれた。

 

ユリシーズの翻訳がとうとう未完のままだったこと、柳瀬尚紀が亡くなったことを半年あまりも知らなかったことへのショックが大きかった。20年ほど前、大学生のころに彼が翻訳するユリシーズを読み、これが完結する日を心待ちにしていた。時間はかかるだろうが、『フィネガンズウェイク』を完訳した彼のことだから、いずれユリシーズも完成させてくれるだろうと信じていた。特に第14挿話「太陽神の牛」をどういう文体で訳すのか、丸谷才一訳とどう違うのかを読むのが楽しみだった。

 

このことは私に、人はいつか死ぬということ、大切なことは死ぬまでに終わらせなければならないという、極めて当たり前のことを教えてくれた。
 

無い物ねだりをしても仕方がないので、彼が書いたジョイスに関する本を読み、彼が遺したユリシーズをゆっくりと読み進めている。少しずつ氷に溶けていくウイスキーをなめるように。

 

ユリシーズ1-12

ユリシーズ1-12